私のしるし

この部屋の小さな窓から
歓楽街のネオンの光が
差し込む頃
彼は帰ってきてくれます

私がちゃんとしていれば
温かくて美味しいごはんを
食べさせてくれるし
私が好きな本を
綺麗な声で読んでくれます

私はこの幸せを
誰かに伝えたいのですが
そうすると
もう会えないんだそうで
昼の 孤独な時間はひたすら
彼との思い出に浸るのです

彼の匂いに包まれれば
たちまち深い眠りに落ち
すぐに朝となりました
私のからだには
しるしがひとつ

日にちが経って
消えてしまっても
次の日の朝には
また違うところに
しるしがひとつ

ひとつ、ふたつと
数えていくうちに
わたしは眠っていることが
多くなっていました
おいしいごはんも
すきなほんもいらなくて






目覚めると
私は白い部屋にいました
彼の姿はなく
私のしるしも
全て消えていました

彼の匂いもない
この白い部屋で
私のしるしはただの痛みで
残すことに何の価値もなかった

私は何もわかっていなかった

あの部屋で気づかないうちに
彼は私を縛っていたのだ
何も感じないくらいゆっくりと