赤いタンバリン

ベッドの脇におかれていた
おもちゃの赤いタンバリン
カシャ…と手に取り
鳴らしたきみの揺れる髪
何度も聞いたことのある旋律

きみと読み合わせていた本は
175ページまで読み終わったところで
お互い「子供の頃の話」になった

キャンドルホルダー
小さな光の粒が
僕たちの本の表紙を
頼りなく照らしている

ふわりと香る シトラスの香り
瓶につめて 楽しむことも
忘れるほどに響く無邪気な声



「真実の生活をしてみたいね」
それは、生きてるってことを
2人きりで楽しんでいる生活

おもちゃの赤いタンバリン
カシャ…とベッドの脇において
「…嫌なら捨ててもいいよ」
ときみは言う

何度も聞いた溜め息混じりの言葉
長く伸びた髪がきみの横顔を隠した

僕はきみの髪を解くように撫でる
何度も何度も撫でながら
心の中で思っていた

せっかちなきみは
いつも強引に結論づけるけど
ほんの少し夢を見たいのだ

遠慮なく押し寄せる現実に
随分遠いところまで
流されたような気持ちだったから



「続き、読んでもいい?」
きみは伏せられた本を再び開き
176ページを朗読し始めた