カセットテープ

桜咲く正門を過ぎて
この校庭を見渡すと
あちこちから
きみの息づかいが
聴こえてくる

そして
あの曲が聴こえてくる

全力で走り抜けた
トラックには
力強い足跡
ひらひらとたなびく
ハチマキ

昼休み
バスケットコートで
きみの真剣な眼差しを
この木陰から眺めていた
シュートを決めた後の
振り返った時の笑顔
きらきらと光る汗

私たちは違いすぎていたし
見ているだけでよかった

帰り道、音楽を聴きながら
歩く私に
きみは突然話しかけてきた

それから私たちは音楽だけで
繋がっていた
それ以外に話せることがなかったし
音楽の話だけで楽しかった

お互いに好きな曲をふきこんだ
カセットテープ交換して
語り合った放課後

きみからもらった
ライチャス・ブラザーズの
カセットテープ
丁寧に書かれたタイトルを
指でたどる






制服のリボンに
ひらひら花びらひとつ
舞い落ちる

何も伝えられなかったのではなく
なくしたくなかっただけ
今もここにあるきみの音楽
私の中で生きている