飲み干す遺書
起動せぬ real lpc の荒野にスズメが止まっている
スズメは何かに気づき胸を反らせながら激しく鳴いたかと思うと
曲線を描いて宙を舞った
音響は地べたにへばりついた君の胸元へ届き
目で追うスズメの群れが遥か遠方に消えていくのが分かる
空の彼方から遠雷
私の影はどこにもない
私のままではいられない私の
服を静かに脱がすあなたの手
real lpc の轟音と混ざる雷
荒野に置いてきぼりにされた君は
死ぬのが怖いのか
死ぬのが怖いのか
今あるがままの姿で
雷が落ち、コンパスはクルクルと方向を失う
死を悟る前に
ビスケットを口いっぱいに頬張る
口で転がされたビスケットは
男の口に移される
目に見えて明らかになるのは
君
と
私
が同じ人物であるという事実
男は俯瞰している
時に冷たく時に温かく
愛と呼ばれる情動を手にぶら下げて
2 人の歯はぼろぼろと抜け
空から降ってきた雪が
青白い唇を潤す
積もってもすぐに消える淡雪
女は簡単な遺書をしたためた
女
かつて君あるいは私と呼ばれた女は
荒地の先を見据え
雪が溶けていく白い素肌を
露わにしたまま唇を男に向ける
男は液状になっていく遺書を
飲み干していく
そばで聴こえるのは
real lpc ギターの音
小春日和
2 匹のスズメが
一匹の虫を啄んでいる
男と女の姿は
離れ行き
スズメの羽根が落ちるは
楽園
※ 「real lpc」とはDTMなどで使うギター音源のこと。