恋する生き物

既に彼の中で、リネン素材は
流行り廃れていたようだが
「お前にしてはまともな格好だな」
と言ってくれた

生活感のない部屋で
口にしたのはシンプルなパスタと
生ぬるい紅茶に
フルーツどっさり

夜は暖のとれない
薄い毛布を1枚借してくれて
ウォン・カーウァイ
映画を一緒に見た

「殺し屋に恋するなんてね」

「俺が女なら惚れるね」

「えー、いつか殺されそうじゃん」

「人は殺し合う生き物だよ」



「……モウのアイスクリーム食べたいな」

と映画に目を戻しながらも、
(……泣くな……)
と堪えていた

そして
いつか「死ぬ」なら
この人に殺してほしいと思える
女になりたかった

次の日の昼
駅近くのレコード店
すました女の子のジャケットを
見つけたので、試しに聴いてみた

♪新しい服着て~あなた所へいくの~

「小島真由美…聞いたことないな」

ジャケットを見つめる彼の側で
この曲が聞こえているのは
ヘッドフォンしている私だけだ

♪Am、E、Em、D、Dm、C、Dm7、G7、C

メロディー、せつな。。
…泣くな……

(こんなところで泣かれたら困るよ)

そういうに決まってるし、
今日私は自分の町へ帰るのだ

彼の彼女なら
泣いたりしない
行きより重いトランク持って
駅へと向かった