月明かりもない夜

「海が見たい」って言うから
真っ黒い浜辺を一緒に歩いた
波打ち際に突然座り込み
「ここから動かない
そのうちいなくなるから」
とか言い出すきみ

「どっちが先に立ち上がってしまうか
競争しよう」
僕はできるだけ無邪気に
言うつもりだったのに
言葉にした途端
思わず嗚咽してしまった

月明かりもない暗い夜だった
少しでも星空が広がっていれば
こんな気持ちにはならなかっただろう

きみは黙って僕の手をとった
この手の温もりに
どれだけ助けられたことだろう

それなのにここまできみを追い詰めて
僕自身も、今更追い詰められている

「ごめん、もう帰ろう。」
それがきっと最後の言葉で
きみは僕の前に現れなかった