臨床心理士

新しい職場にある電話は
思ったとおりの番号が押せない
2,3,5…*a,d ヲ…2,3,5,9,ニ…

理解不能な文字で綴られた
業務マニュアル
モノクロの同僚達

今度こそ社会人として
上手くやろうと思っていたが
敢えなく挫折し
学校生活をやり直すことにした

田園沿いの通学路を
俯きながら黙々と進む
空は見たことがない

どんなに早く家を出ても
ホームルームに間に合わず
毎回体育服を忘れ
貸してくれる友達はいなかった



僕「ふっと目覚めると、隣に子供が寝ているんです。幸せなことだって思っているんですが、どうしても思い出せないんです。」



業務マニュアルは
窓から吹き込む風で
パラパラと捲れている
空の色はわからなかった

僕は今、何歳なのかも
わからなくなっていた



僕「卒業式の日、やっぱり僕の名前は呼ばれなかったので、今回は屋上へ上がり、ゆっくりと空を見上げてみたんです。」



突然 小さな風の渦が起こり
散った桜の花びらが
ふわりと空へ舞い上がり
ずっと高く昇っていく

僕は
空に向かって手を伸ばし
アスファルトを強く蹴って
思いっきり飛んだ

舞い上がれ ずっと高く
と、祈りながら


僕「それから、働けない夢をみなくなりました。」

「空の色は何色でしたか?」

僕「どこまでもずっと青い空でした」

「」