ジグソーパズル

壊れたように体を震わせて
僕の胸で泣いている
何か声をかけるべきか
ただ黙って抱きしめるべきか

呼吸が早い
ゆっくりゆっくり
きみの肩をトン、、トン、、
手をそっと置くように
ゆっくりとリズムを刻む

呼吸を整えて
息をゆっくり吸って吐いて
バラバラになったパズルのピースを
少しずつはめていくように
きみの気持ちが言葉になるのを
ただ待っている

「あのね。。」

息を吹き返したように
きみの言葉が溢れる
僕は両手で雨粒を受け止めるように
じっくりときみの言葉を受けとめる

ファッション

体育から帰ってきたら
制服のスカートがジャキジャキに
切ってあったんだ

着れないこともないから
それもアリかなと
履いてみた

糸がどんどんでてきて
ふくらはぎが痒くなったけど
それもアリかなと
家路についた

今日の夕方、どこかの町で
女子高生がレイプされ
殺される事件があったという
ニュースが流れてきた

制服は真っ赤に染まり
無惨に切り刻まれていたという
でもスカートは無傷だった

泣けてくる。
泣けてきた。
私のファッション

こんなにも悲しみが溢れてくる
もう今日が最期の日かと思うほどに

再会

長く延びる糸と糸
色は赤か或いは白か
そっと引いてみたものの
いつの間に絡んでしまった

一つ一つ丁寧にほどくか
無理に引っ張り固結びになるか
千切れるのか

鋏があるよ
切ってしまえばいいよ
先に切られるのが怖いから
此方から先に切る
パツンと切られてだらりと落ちる

そんな簡単に切っていいのか
切られるの怖いからって
此方から切っていいのか

後悔したって
こんなたくさんの中から
探すの大変だよ
落ちてないかもしれないし

元通りになるわけない
もう一度結んだって
またすぐ切れるかもしれない

そんなことばかり考えるうちに
だらりと垂れた糸ばかり
手元に残ってしまった

もう一度結んでみよう
結び目がゴツゴツしてても
不格好だっていい

また逢えてよかったと
思えるように

温度

喉に大きな球体が詰まっていて
こころが凍りついているみたい
誰か、誰か、温度を頂戴
溶かして涙にしてください

背中に大きな球体を背負わされて
からだが沈んでいくみたい
誰か、誰か、風を頂戴
せめて海辺に流れ着きたい

泣かない子供
いい子なんかじゃない
なにも感じてない訳じゃない
溺れないように笑っているだけ
そのうち自分で身を滅ぼすと
気づかないまま笑っているだけ

ほんの少しの温度を頂戴
溶かして涙にしてください

月明かりもない夜

「海が見たい」って言うから
真っ黒い浜辺を一緒に歩いた
波打ち際に突然座り込み
「ここから動かない
そのうちいなくなるから」
とか言い出すきみ

「どっちが先に立ち上がってしまうか
競争しよう」
僕はできるだけ無邪気に
言うつもりだったのに
言葉にした途端
思わず嗚咽してしまった

月明かりもない暗い夜だった
少しでも星空が広がっていれば
こんな気持ちにはならなかっただろう

きみは黙って僕の手をとった
この手の温もりに
どれだけ助けられたことだろう

それなのにここまできみを追い詰めて
僕自身も、今更追い詰められている

「ごめん、もう帰ろう。」
それがきっと最後の言葉で
きみは僕の前に現れなかった

臨床心理士

新しい職場にある電話は
思ったとおりの番号が押せない
2,3,5…*a,d ヲ…2,3,5,9,ニ…

理解不能な文字で綴られた
業務マニュアル
モノクロの同僚達

今度こそ社会人として
上手くやろうと思っていたが
敢えなく挫折し
学校生活をやり直すことにした

田園沿いの通学路を
俯きながら黙々と進む
空は見たことがない

どんなに早く家を出ても
ホームルームに間に合わず
毎回体育服を忘れ
貸してくれる友達はいなかった



僕「ふっと目覚めると、隣に子供が寝ているんです。幸せなことだって思っているんですが、どうしても思い出せないんです。」



業務マニュアルは
窓から吹き込む風で
パラパラと捲れている
空の色はわからなかった

僕は今、何歳なのかも
わからなくなっていた



僕「卒業式の日、やっぱり僕の名前は呼ばれなかったので、今回は屋上へ上がり、ゆっくりと空を見上げてみたんです。」



突然 小さな風の渦が起こり
散った桜の花びらが
ふわりと空へ舞い上がり
ずっと高く昇っていく

僕は
空に向かって手を伸ばし
アスファルトを強く蹴って
思いっきり飛んだ

舞い上がれ ずっと高く
と、祈りながら


僕「それから、働けない夢をみなくなりました。」

「空の色は何色でしたか?」

僕「どこまでもずっと青い空でした」

「」

黄信号

夏の終わり
自分の中の信号が
黄色に変わる

今年は大丈夫だろうと
思っていても、あともう少しで
赤に変わる。

ちゃんと止まるんだ
黄信号に気づいたときに。
何かに轢かれる前に。